子どもの生活

 6年生を担任した新任2年目の春。クラスのAさんがスーパーで万引きしたとの一報があり、お店に走った。母親が再婚して赤ちゃんが生まれたため、彼はおばさんの家に引き取られていた。

 ひとしきり指導した後、帰りしな「一緒にラーメン食べんか」と、家族の食事に誘った。テーブルに私の妻や子どもも一緒に腰掛けたが、Aさんは箸に手をつけようとしない。万引きのことを気にしているのか。「食べたらいいんやで」と促すと、彼は泣き出した。「先生、ええなあ。こうしてみんなでラーメン食べるの・・・。」

 Aさんは教室ではいつも明るく振る舞っていた。でも、この時、お母さんと一緒に暮らせない悲しみに必死に耐えていたことに気づいた。おばさんの家では遠慮して冷蔵庫も自由に開けられず、従弟とけんかすると「ここから出て行け」と言われるのではないかと、ビクビクして暮らしているらしい。 

 子どもが学校で過ごすのは8時間。しかし、「おはよう」の前の8時間と、「さようなら」の後の8時間の暮らしがある。その16時間に思いを寄せるのが教師ではないかと教えられた。卒業後、風の便りにAさんが一生懸命働いて生きていると聞いた。「負けへんかったんやなあ」と、うれしさがこみ上げた。