心の窓③

 子どもを3つの時間帯で考えるきっかけになったのは、T君の「万引き事件」だった。一報を受け急いで店に向かった。母親が再婚し赤ちゃんが生まれたため彼は叔母さんに引き取られていた。店からの帰りしな「一緒にラーメン食べんか」と誘った。テーブルに腰掛けたT君は箸に手をつけようとしない。万引きのことを気にしているのか。「食べたらいいんや」と促すと、彼は泣き出した。

 T君はいつも教室で明るく振る舞っていた。しかし、親と離れている悲しみに必死に耐えていることに気づいた。叔母さんの家では遠慮して冷蔵庫も自由に開けられず、従弟のD男と喧嘩したら「お前は出て行け」と言われるかとビクビクすると話してくれた。

 学校で過ごす顔は8時間。けれど、子どもには「おはよう」とあいさつを交わすまでの8時間と「さようなら」の後の8時間の姿がある。16時間の暮らしに思いを寄せる大切さを教えられた。彼が成人した頃、風の便りで一生懸命働いていると知った。「負けへんかったんやなぁ」とうれしさがこみ上げた。