ゆでガエルの法則

 ゆでガエルの法則とは、「カエルがいる冷たい水の温度を少しずつ上げていくと、温度変化に気づかず、最後はゆで上がって死んでしまう」という話だ。状況変化がゆるやかだと危機になかなか気づけないという寓話である。昨年度末、徹子の部屋に出演したタモリさんが「2023年はどんな年になると思いますか」と聞かれ、「新しい戦前になるんじゃないですかね」と言ったことが印象的だった。

 1941年、経済不況で日本社会は閉塞感に包まれていた。そんな状況下に、日本軍のマニラ占領のラジオ放送が流れた。当時12歳の少女の日記に「心躍るできごと」と、書かれていたとNHKスペシャル:新・ドキュメント太平洋戦争 「1941 開戦(前編)」は報じた。「鬼畜」米英を撃破してアジア諸国を解放するという「大東亜共栄」構想は、多くの国民を高揚させた。東条首相の「聖戦のため国民一丸となろう」との演説に庶民は熱狂し、そして、地獄に落ちていく。

 ガソリンが1㍑200円に迫っている。春の130円台から徐々に値上がりして今に至る。「200円なんて!」と驚いてしまうが、一気に高騰するよりは反発も小さいか。かつてドイツの町のパン屋が「本日、ユダヤ人お断り」と軒先に張り紙を出した。ドイツ市民は気にも留めなかったが、その数か月後にユダヤ人強制収容がはじまった。世の中は良くも悪くも一気に変化しない。少しずつ少しずつ起こるものだ。日々の何気ない変化の「兆し」に敏感でありたい。